論文紹介

勉強会風景 

このページでははがくれ呼吸ケアネット大学院セミナーで読まれた論文を中心に紹介しています。

 

2017.06.06 紹介者 市丸市丸 勝昭(佐賀県医療センター好生館理学療法士) 

Inpatient Rehabilitation Improves Functional Capacity, Peripheral Muscle Strength and Quality of Life in Patients with Community-Acquired Pneumonia: A Randomized Trial.  J Physiother  2016; 62: 96-102. 

 

PMID 26996093

 

タイトル和訳

市中肺炎患者に対する入院リハビリテーションは身体能力、筋力およびQOLを改善する;無作為比較試験

  

要旨 

疑問点:市中肺炎で入院した患者に対して、運動療法中心のリハビリテーションプログラムが、通常の呼吸理学療法と比較して、身体能力、自覚症状、QOLおよび入院期間を改善するかについて検討した。

 

研究デザイン:無作為比較試験、intention-to-treat解析を行った。

参加者:市中肺炎で入院した成人49名であった。

介入:介入群(n=32)はウオームアップ、ストレッチ、筋力トレーニングおよびコントロールされた速度で15分間の歩行、を含む理学療法を受けた。対照群(n=17)はパーカッション、振動圧迫、呼吸訓練および自由歩行、を含む呼吸理学療法を受けた。介入は8日間行った。

 

評価測定:主評価項目はGlittreのADL評価を用いた。これは生活動作(例えば椅子から立ち上がる、歩行、階段昇降など)にかかる時間を計測するものである。副次評価項目は漸増シャトルウオーキング試験歩行距離、筋力、QOL、呼吸困難症状、呼吸機能、血清CRP値および入院期間である。側手は介入期間の1日前および1日後におこなった。

 

結果:GlittreのADL評価および漸増シャトルウオーキング試験歩行距離は運動リハビリ実施群において有意に改善した。同様に介入群でQOL、呼吸困難および筋力の改善が有意に良好であった。呼吸機能、血清CRPおよび入院期間には介入群と対照群で差は認めなかった。

 

結論:運動療法を含むリハビリプログラムは通常の理学療法よりも身体能力、筋力、息切れ症状およびQOLの改善に貢献した。

 

 

2016.11.15 紹介者 白仁田 秀一(長生堂渡辺医院理学療法士)

A Randomized Trial of Long−Term Oxygen for COPD with Moderate Desaturation.
The Long-Term Oxygen Treatment Trial Research Group N Engl J Med. 2016; 375: 1617-27. 

 

PMID 27783918

 

タイトル和訳

軽度酸素飽和度低下があるCOPD患者を対象とした長期間酸素投与のランダム化試験

  

要旨 

背景:安静時に軽度の低酸素血症を有する、もしくは運動によって軽度の低酸素血症が誘発される、安定期COPD患者に対する長期間酸素吸入療法の効果は不明である。

 

方法:安静時に軽度の低酸素血症(SpO2 89%〜93%)を伴う安定期COPD患者に長期間酸素吸入療法を行った場合に、行わなかった場合と比べて生存期間が延長するかの検討を、当初は計画していた。7ヵ月で34例を割り付けた後、研究計画の変更を行い、安定期COPDで運動によって軽度の低酸素血症が誘発される患者も対象に加えられた。当該患者の条件は6分間歩行試験中にSpO2が10秒間以上90%未満となり、かつ5分間以上SpO2 80%以上を保つことである。さらに、新たに主要評価項目として全原因による初回入院までの期間を追加した。患者は長時間酸素を使用する群と使用しない群に1:1の比でランダムに割り付けられた。長時間酸素使用群では、安静時の酸素飽和度低下がある場合には24時間の酸素使用が、労作時のみの酸素飽和度低下の患者では労作時と睡眠時の酸素使用が、それぞれ処方された。患者の割り付けについては盲検化されなかった。

  

結果:42施設738名の患者が1−6年間観察された。時間事象解析の結果、死亡もしくは初回入院の期間に、長時間酸素投与群と非投与群の間に有意差がない事がわかった(ハザード比0.94、95%信頼区間0.79 – 1.12、p=0.52)。また、全入院の率(率比1.01、95%信頼区間0.91 – 1.13)、COPD急性増悪率(率比1.08、95%信頼区間0.98 – 1.19)、COPD関連入院率(率比0.99、95%信頼区間0.83 – 1.17)にも2群間で有意差が認められなかった。QOL、呼吸機能、6分間歩行距離の経過に群間差を認めなかった。

  

結語:安静時に軽度の低酸素血症を有する、もしくは運動によって軽度の低酸素血症が誘発される、安定期COPD患者では、長時間酸素の処方が死亡もしくは初回入院までの期間延長には繋がらなかった。また、その他の測定項目においても長時間酸素処方による利益は認められ無かった。

  

論評:最近注目の報告である。COPDにおける在宅酸素療法についての本邦の保険適応基準とは矛盾しない。

 

 

2016.2.14 紹介者 林 真一郎(高木病院呼吸器内科医師)

Quantitative Assessment of Erector Spinae Muscles in Patients with COPD: Novel Chest CT-derived Index for Prognosis. 
Tanimura K et.al. Ann Am Thorac Soc. 2015 Dec 23. [Epub ahead of print]  

 

PMID26700501

 

タイトル和訳

COPD患者における脊柱起立筋群の定量的評価:胸部CT画像より得られる新規予後指標

  

要旨 

背景:骨格筋量の減少と身体活動性低下はCOPDの重要な症状であり、予後不良と密接に結びついている。抗重力筋は正常姿勢維持に用いられており、活動性低下により萎縮しがちである。脊柱起立筋群は抗重力筋の1つであり、胸部CTにてサイズの評価が可能である。

 

目的:CT画像における脊柱起立筋群の断面積がCOPD患者の死亡の予測因子になるという仮設を検証した。

 

方法:本研究は京都大学附属病院で実施された前向き観察研究の一部分である。COPD患者の脊柱起立筋群の断面積を第12胸椎レベルのCT画像を用いて計測した。大胸筋の断面積もCTにて測定した。さらに、脊柱起立筋群断面積と死亡率を含むCOPDの臨床的な指標と比較した。年齢と身長を一致させた喫煙健康対照者においても同様の評価を行った。

 

  

結果:130名の男性患者と20名の喫煙対照男性が本研究の対象となった。脊柱起立筋群断面積は対照群に比べてCOPD患者で有意に低値であり、疾患重症度と相関していた。脊柱起立筋群断面積と大胸筋断面積の間には有意な相関があったが、その程度はあまり強くないものであった。脊柱起立筋群断面積はBMI、mMRC息切れスケール、1秒量予測値比、IC/TLC比、気腫重症度(LAA%)など、既に報告されているCOPD予後因子と有意に相関した。大胸筋断面積と比較して脊柱起立筋群断面積はより強くCOPD患者死亡と関連していた。これら既知の予後因子も含めて、Cox proportional hazardsモデルを用いたstepwise多変量解析を行ったところ、脊柱起立筋群断面が最も強い死亡危険因子(Hazard Ratio (HR), 0.85; 95% confidence interval (CI), 0.79-0.92; p<0.001) であり、他にmMRC息切れスケールも独立した危険因子 (HR, 2.35; 95% CI, 1.51-3.65; p<0.001)となった。

 

 

結語:胸部CTを用いた脊柱起立筋群断面積は有用な臨床指標となり得るかもしれない。

 

  

2016.1.1 紹介者 林 真一郎(高木病院呼吸器内科医師)

Clinical and Immunological Factors in Emphysema Progression. Five-Year Prospective Longitudinal Exacerbation Study of Chronic Obstructive Pulmonary Disease (LES-COPD). 
Bhavani S et.al. Am J Respir Crit Care Med. 2015; 192: 1171-8. 

PMID26241705

 

タイトル和訳
5年間前向きのLES-COPDコホート研究成果:肺気腫進行にかかわる臨床および免疫学的要因についての報告

 

要旨 

背景:先行横断的研究で自己抗原に対するT細胞の反応と気腫重症度の相関が示されている。

 

目的:5年間の前向き研究において、既往・現喫煙者の気腫程度、1秒量、6分間歩行距離の悪化を予測する臨床的・免疫学的要因を検討した。

 

方法:15箱・年以上の喫煙歴がある40才以上の既往・現喫煙者224名を対象とした。

 

測定:スパイロメトリー、6分間歩行距離、末梢血T細胞の肺エラスチン断片に対するサイトカイン産生反応が反復測定された。ベースラインと2回目の胸部CT(34〜65ヵ月間隔)を用いて気腫進行の評価を行った。

 

結果:ベースラインと2回目のCTを実施した141名の既往・現喫煙者で、気腫の占める割合の年間変化は平均(標準偏差)+0.46(0.92)であり、範囲は-1.8〜+4.1であった。多変量解析の結果、気腫の進行速度はBMIが低い個体で速かった(BMIが5低下する毎に+0.15; 95%信頼区間+0.03〜+0.29)。現喫煙者ではT細胞からのインターフェロンγおよびインターロイキン6(IL-6)の産生が気腫の進行速度と正の相関を示した。男性であることとエラスチン断片に対するT細胞のIL-6産生反応は有意に6分間歩行距離の減少と相関していた。一方、T細胞からのIL-13産生反応は6分間歩行距離の増加と相関していた。

 

結語:現・既往喫煙者の気腫進行速度には極めて幅があり、これまでの臨床因子やバイオマーカーではそのバラツキの一部分が説明できるのみであった。自己反応性のT細胞を有し、BMIが低い現喫煙者を標的とした、積極的な臨床的介入は気腫の進行抑制に寄与する可能性がある。

 

 

 

注釈:インターフェロンγやインターロイキン6はTリンパ球から産生される代表的なサイトカインであり、Tリンパ球を介する様々な炎症反応の速い段階で重要な役割を果たす。インターロイキン13もTリンパ球から産生されるサイトカインであるが、気管支喘息などTh2リンパ球が関与する炎症で重要な役割を担っている。

  

 

 

2015.11.13 紹介者 白仁田 秀一(長生堂渡辺医院理学療法士)

Cause of death associated with prolonged TV viewing. NIH-AARP diet and health study. 
Keadle SK et.al. 
Am J Prev Med. 2015; 49: 811-21.

PMID: 26215832 

 

 

タイトル和訳
長時間テレビ視聴と関連した死亡の原因

 

要旨 

緒言:テレビ視聴は座りっぱなしとなる行為の代表で、心血管疾患や癌死亡のリスク増加と関係しているが、その他の主要な死亡原因との関係については不明である。本研究では主要な死亡原因とテレビ視聴との関連について米国内で検討した。

 

方法:221,426名(57%が男性)を対象とした前向き研究である。研究開始時(1995-1996年)に年齢50-71歳で慢性疾患を有してなかった者が対象となった。93%が白人、BMIは平均26.7(標準偏差4.4)であった。対象者は研究開始時にテレビ視聴時間を自己申告し、死亡時もしくは2011年12月31日まで追跡された。

 

結果:平均14.1年の経過観察の結果、テレビ視聴2時間増加毎の標準化死亡リスクは以下の死亡原因について有意であった。

          ハザード比 95%信頼区間

がん          1.07   1.03-1.11

心疾患         1.23   1.17-1.29

慢性閉塞性肺疾患    1.28   1.14-1.43

糖尿病         1.56   1.33-1.83

インフルエンザ・肺炎  1.24   1.02-1.50

パーキンソン病     1.35   1.11-1.65

肝疾患         1.33   1.05-1.67

自殺          1.43   1.10-1.85

 

死亡率とテレビ視聴との関係は、寄与を打ち消す方向にある交絡因子を用いた層別解析をおこなっても、維持されていた。

 

結論:本研究では、長時間テレビ視聴が死亡率と関係していることを示し、主要な死因疾患との間に関連があることを新たに見いだした。テレビ視聴は広く行き渡っている自発行為であるが、従来考えられていたよりはるかに重要な、公衆衛生的介入のターゲットかもしれない。

 

 

 

論評:NIH公衆衛生部門を中心に行われた20万人規模の前向き研究であり、信頼性は高い。米国と本邦では生活習慣に若干の差はあるものの、普段の臨床でも”動かれない”COPDの患者さんは”テレビ番”をされていることが多く、今後の介入において重要なポイントを示唆する報告である。

 

 

2015.9.25 紹介者 林 真一郎(高木病院呼吸器内科医師) 

Benefits of physical activity on COPD hospitalisation depend on intensity. 
Donaire-Gonzalez D et.al. 
Eur Respir J. 2015; 46: 1281-9

PMID: 26206873 

 

 

タイトル和訳
COPD入院に対する身体活動性の有用性は強度に依存する

 

要旨 

本研究の目的はCOPDによる入院リスクの減少に身体活動性の量と強度がそれぞれどのように関与しているかを検討することである。PAC-COPDコホート(Phenotype Characterization and Course of COPD)のうち177名(年齢71±8歳、%FEV1 52±16%)がSenseWear Pro2腕時計式加速度計を8日間装着し、身体活動性について量(steps per day, physically active days, daily active time)と強度(平均METS)を記録した。経過観察期間(2.5±0.8年)におけるCOPD入院の情報はPAC-COPDコホートデータベースから得た。観察期間中に67名(38%)の患者が入院した。COPD入院リスクへの影響において、身体活動性の量と強度の間には交互作用があった。Cox回帰モデルを用いて交絡因子の標準化を行うと、低活動強度群では1000歩/日増える毎に入院リスクが20%低下した(HR 0.79, 95%CI 0.67-0.93; p=0.005)。高活動強度群では1日歩数はCOPD入院リスクに影響を与えなかった(HR 1.01, p=0.919)。他の身体活動量指標についても同様の結果であった。低活動強度でのより多い身体活動量はCOPD入院のリスクを下げるが、高強度の身体活動は入院リスク低下に寄与しなかった。

 

  

2015.7.24 紹介者 今泉 裕次郎(JCHO佐賀病院理学療法士) 

Oxygen desaturation and adverse events during 6-min walk testing in patients with COPD.. 
Roberts MM et.al. Respirology 2015; 20: 419-25

 

 

タイトル和訳
COPD患者における6分間歩行試験中の酸素飽和度低下と有害事象

 

要旨

背景と目的:6分間歩行試験は簡単に機能的評価を実施することができる評価法であるが、肺疾患患者では酸素飽和度低下にともない危険事象発生の恐れからアメリカ胸部疾患学会ガイドラインに示された標準法とおりの検査を行い得ないことがある。我々は安定したCOPD患者において6分間歩行試験の安全性を評価し、労作時に低酸素を生じた患者と生じなかった患者で有害事象の発生率を比較検討した。

 

方法: 中等症から最重症のCOPD患者1,136名に6分間歩行試験が実施された。集団の特性、有害事象、酸素飽和度(SpO2)、6分間歩行距離、呼吸機能、QOLを労作時低酸素群(最低SpO2 < 85%)と対照群(最低SpO2 ≥ 85%)の間で比較した。比較は連続変数についてはMann-Whitney U testで、カテゴリー変数についてはFisher's exact testを用いておこなった。

 

結果:25名(2.2%)の患者が有害事象を経験した。頻度が高かったのは、めまい、胸部絞扼感、胸痛と動悸であった。労作時の低酸素は有害事象の頻度に影響を与えなかった。低酸素群で有意な発症頻度の増加や死亡は記録されなかった。有害事象を生じた患者をそうでないものと比較すると、前者で運動前のSpO2低値、QOLスコア不良であり、また、うつ・焦燥のスコアが高値であった。一方、身体特性、呼吸機能成績、6分間歩行試験中や試験後のSpO2の値は両者の間で差がなかった。

 

考察:COPD患者対象の6分間歩行試験において、無症状の労作時低酸素は有害事象の増加と関連しなかった。ATSのガイドラインでは、“6分間歩行試験は症状が無い限り継続すべきであり”、“間欠的な酸素飽和度の測定は有害事象の防止に有用でない”とされているが、我々の結果はそれを支持するものである。

 

論評 6分間歩行試験の有害事象の頻度についての報告は、数が少なく、重要である。SpO2が極端に低下した患者とそうでない患者の比較は意義があると考える。一方、後半部分の有害事象あり群となし群の比較は25名対1,111名の比較であり、結果の解釈は慎重に行う必要がある。 

 

  

 

2015.7.24 紹介者 江越 正次朗(医療福祉専門学校緑生館理学療法学科教官) 

Pedometers to enhance physical activity in COPD: a randomised controlled trial. 
Mendoza L et.al.Eur Respir J 2015; 45: 347-54

 

 

タイトル和訳
歩数計はCOPD患者の身体活動性を高めるかについての無作為化コントロール試験

 

要旨

 身体的不活動はCOPD患者の重要な特徴であり、疾患の重症度や死亡率の増加に関与している。歩数計は健常人に使用されてきたが、COPD患者においても身体活動性を高める可能性が考えられた。
 

 3ヵ月間の身体活動量増加を目的とした個別化プログラムに参加したCOPD患者を対象とした。これらの患者は標準プログラム(身体活動量増加を促すのみ)と歩数計を使用したプログラムに無作為に割り付けられた。評価は患者がどちらのプログラムに割り付けられたかを知らない研究者によって実施された。1週間の平均1日歩行数、6分間歩行距離、mMRC、SGRQ、CAT、のプログラム前後の変化について2群で比較を行った。
 

 102名の患者が登録され、97名の患者(歩数計群50名、標準プログラム群47名)がプログラムを完了した。対象者のうち60.8%が男性であり、年齢は68.7±8.5歳、%1秒量は66.1±19.4%、1秒率は55.2±9.5%であった。両群のプログラム開始時の特性には差は認められなかった。歩数計群が標準プログラム群と比較して有意な改善を認めたのは、1) 身体活動性 1日当たり3080±3254歩の増加 対 138.3±1950歩の増加(p < 0.001)、2) SGRQ -8.8±12.2 対 -3.8±10.9 (p = 0.01)、3) CATスコア -3.5±5.5 対 -0.6±6.6 (p = 0.001)、4) 6分間歩行距離 12.4±34.6 m 対 -0.7±24.4 m (p = 0.02) であった。
 

 歩数計を用いた簡単な身体活動量増加プログラムであったが、COPD患者の身体活動量とQOLの改善に有効に作用することができた。

 

  

2015.6.12 紹介者 白仁田 秀一(長生堂渡辺医院理学療法士) 

Short term and long term effects of pulmonary rehabilitation on physical activity in COPD. 
Egan C et.al. Respir Med 2012; 106: 1671-79

 

 

タイトル和訳
COPD患者の身体活動量に対する呼吸リハビリテーションの短期的・長期的効果

 

要旨

背景:呼吸リハビリテーションの主たる目的は訓練によって機能を改善し、疾病状態を軽減することである。しかし、機能改善を長期に維持することが出来るか否か、あるいは長期的な機能改善が身体活動量の改善に繋がるか否か、については未だ不明である。本研究では「呼吸リハビリテーションは標準的な検査項目を長期にわたって改善し、身体活動量の増加につながる」という仮説を検証する。

 

方法: 本研究はCOPD患者47名を対象とした前向き研究として実施された。主評価項目は標準的な評価における長期的な改善であり、副次的評価項目は身体活動量の増加とした。都合がつく17名の患者では1年後に3回目の評価をおこなった。

 

結果:7週間の外来呼吸リハビリテーションにより総エネルギー消費量(TEE p<0.044)、呼吸困難(Borg scale p<0.01)、運動耐容能(ISWT p<0.01, 6MWT p<0.002)、吸気筋力(PI max p<0.007)、QOL(SGRQ p<0.001, EQ5D p<0.025)を有意に改善させた。しかしながら、呼吸リハビリテーションでは平均歩数、座位活動時間、METs消費量や日々の活動量には有意な変化を引き起こすことは出来なかった。また、標準的評価指標や生活の指標は1年後にはbaselineまで戻ってしまった。

 

考察:これらの知見から、呼吸リハビリテーションは運動能力を回復させるが、身体活動量の向上には結びつかないことがわかった。従って、行動変容に結びつく別方向からのアプローチが必要である。

 

論評 前向き試験とは言え、少人数の試験であり、1年後の観察が登録患者の1/3程度に過ぎない。従ってデータの信頼性としては低い。また、リハビリ介入が7週間に過ぎないことも従来の同様研究と比べて問題となる。しかしながら、いわゆる理学療法のみでは身体活動量の改善に繋がらないのは、近年確立されつつある知見であり、行動変容をめざした包括的介入を用いて、身体活動量の向上が図れるかが今後の課題である。

   

 

2015.5.14 紹介者 市丸 勝昭(佐賀県医療センター好生館理学療法士) 

Effect of palliative oxygen versus room air in relief of breathlessness in patients with refractory dyspnoea: a double-blind, randomised controlled trial. 
Abernethy AP et.al. Lancet 2010; 376: 784-93

 

 

タイトル和訳
難治性の呼吸困難を有する患者の息切れに対して緩和的な酸素投与は有効か?:二重盲検無作為化比較試験

 

要旨

背景:長期的な酸素療法の適応ではない、終末期患者が呼吸困難に陥った際に、緩和的な酸素療法が幅広く行われている。この様な患者に対し、鼻カニューレで酸素を投与した場合と、室内気を投与した場合の、息切れ緩和に対する効果を比較検討した。

 

方法: オーストラリア、米国、英国の9つの外来施設で管理中の成人患者で、以下の条件を満たす者が、この二重盲検無作為化比較試験に組み入れられた。組み入れの条件は1)予後が差し迫った病態であること、2)難治性の呼吸困難を有すること、3)PaO2が7.3kPa (54.8mmHg)以上であること、である。
 被験者はランダムに1:1の比で、ベースラインのPaO2を調整しつつ、以下の2群に割り付けられた。A) 濃縮器を用いて酸素を鼻カニューレで2L/分、7日間吸入する群、B) 濃縮器を用いて室内気を鼻カニューレで2L/分、7日間吸入する群。
 被験者は1日につき少なくとも15時間は濃縮器を用いるように指導された。主要評価項目は息切れ(0-10点の数値化尺度)であり、毎日朝夕の2度測定された。評価を実施出来た全ての患者がそれぞれの時点毎のデータ解析に含まれており、(中途で死亡したものの結果も;訳者推定)除外されたデータは無かった。
本研究は事前登録され、その番号はNCT00327873と ISRCTN67448752である。

 

結果:239名の被験者が無作為に割り付けられた。酸素群が120名、室内気群が119名である。酸素群112名(93%)と室内気群99名(83%)が7日間の評価を完遂出来た。ベースラインから6日目の間で、朝の息切れの変化は酸素群で-0.9点(95%信頼区間-1.3〜-0.5)、室内気群で-0.7点(95%信頼区間-1.2〜-0.2)であった(p=0.504)。夕の息切れの変化は酸素群で-0.3点(95%信頼区間-0.7〜0.1)、室内気群で-0.5点(95%信頼区間-0.9〜-0.1)であった(p=0.554)。副作用の頻度は両群で差がなかった。著明な意識の障害が酸素群116名中12名(10%)、室内気群108名中14名(13%) に報告された。著しい鼻腔刺激症状が酸素群2名(2%)、室内気群7名(6%)に生じた。酸素群の1名でコントロールに難渋した鼻出血が生じた。

 

考察:鼻カニューレによる酸素吸入は室内気吸入と比較して、末期病態患者の難治性呼吸困難の症状緩和に利益をもたらさなかった。個々の患者で酸素吸入の効果を短時間評価した後、より負担の少ない治療方法が考慮されるべきである。

 

  

2015.5.01 紹介者 野崎 忠幸(佐賀県医療センター好生館作業療法士)

Mild cognitive impairmaent in moderate to severe COPD: a preliminary study
Villeneuve S et.al. Chest 2012; 142: 1516-1523  

 

タイトル和訳
中等症・重症COPD患者における軽度認知障害:予備的研究

 

要旨

背景:認知障害はCOPD患者に頻繁に見られる症状である。しかし、COPD患者が軽度認知障害(MCI)を伴う割合については未だ不明である。また、COPD患者群を対象とした場合、MCIを検出するためのスクリーニングテストの有効性は今日まで検証されていない。本研究の目的は1)COPD患者でMCIの頻度とサブタイプを決定すること、および 2)2つの認知障害スクリーニングテスト(MMSEとMoCA)のCOPD患者でMCIを検出する際の妥当性を検討すること、である。

 

方法:中等症から重症のCOPD患者45名と健常対照被験者50名を対象に、標準的なMCI診断基準を用いて包括的な神経心理学的評価を実施した。COPD患者でMCIを検出する際のMMSEとMoCAの妥当性を検証する為にROC解析をおこなった。

 

結果:MCIはCOPD患者で36%に、健常対照者で12%に認められた。COPD患者のMCIは主として非健忘MCI単一ドメインタイプ(nonamnestic MCI single domain subtype)で、注意分割機能障害あるいは実行機能(行動管理能力)障害が優位であった。最適のMoCAのカットオフは26点であり、25点以下をMCIとすると感度81%、特異度72%、陽性的中率76%の結果をえた。MMSEでは妥当なカットオフ値は得られなかった。

 

結論:この予備的な研究では、認知症の危険因子として知られているMCIを、相当数のCOPD患者が有していることが示された。より重度の認知機能障害が生じるリスク要因であるか決定するには今後の経時的な観察が必要とされる。また、COPD患者でMCIを検知するためのスクリーニング試験としてはMoCAがMMSEに優る。

 

MoCAテスト日本語版→http://www.mocatest.org/wp-content/uploads/2015/tests-instructions/MoCA-Test-Japanese_2010.pdf

MoCAテストマニュアル→http://www.mocatest.org/pdf_files/instructions/MoCA-Instructions-Japanese_2010.pdf 

  

2015.4.19 紹介者 林 真一郎(高邦会高木病院医師)

An official American Thoracic Society / European Respiratory Society statement: research questions in chronic obstructive pulmonary disease
Celli BR et.al. Am J Respir Crit Care Med 2015; 191:e4-e27 

 

タイトル和訳
COPDの研究の目標についてのアメリカ胸部学会(ATS)とヨーロッパ呼吸器学会(ERS)による共同声明

 

要旨

今後行うべき臨床研究の方向性についてATSとERSが共同で提案をしました。

  

 1 臨床研究には患者中心アウトカムを用いる
 2 代替のアウトカムを使う場合は、患者中心アウトカムを確実に予測する高質のものを選ぶ
 3 COPDに対するCT検査の役割を検討する
 4 診断や治療の手引きとして現在使われているCOPDスクリーニングツールについて、その精度と有用性を評価する
 5 形質と患者転帰との関係について検討する
 6 COPDと併存症との関係を研究する
 7 COPDの疾患活動性に禁煙が及ぼす影響、および患者の禁煙を助けるためのアプローチについて調査する
 8 COPD各サブタイプに対する薬理学的治療の効果、および種々な薬理学的治療アプローチと併用療法の効果を、どのように測定するか研究する
 9 呼吸器リハビリテーションに関して、家庭中心のプログラムと病院中心プログラム、地域中心ログラムのそれぞれの有効性を比較検討する
10 COPD患者に対する長期酸素療法および長期非侵襲性機械換気の有効性を調査する